書|感性を耕す、五つの習慣。
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読書に、音楽に、ひと皿に。KOBOKUが寄り添う静謐なひととき。
日本古来の香木を嗜む和香木研究所《KOBOKU》は、本や音楽、そして食とともに、その世界を深めてくれる。
このコラムでは、静かな時間のなかで香味と感性が重なり合うライフスタイルを紹介していく。
感性を耕す、五つの習慣。
二十四節気・霜降を迎え、朝の空気は一段と澄み、草葉の先に小さな白が灯りはじめる。輪郭がくっきりと立ち上がるこの時季は、感覚の解像度が自然と上がり、身のまわりの細部に目が行く。余分をそい落とし、静かに整え、視点を少しだけずらしてみる——まさに「観察」「整える」「視点を変える」をはじめとする習慣が、日々を磨いてくれる季節でもある。


現代に生きる私たちは、膨大な情報に包囲されている。SNSのタイムラインは絶えず更新され、レビューの星印が購買行動を左右し、流行の波が次の流行に押し流されていく。そのなかで私たちは無意識に「誰かの眼」を基準にして物事を選び取っている。誰かが薦めていたから、人気があるから、評価が高いから——。ふと振り返ると、自分が本当に心から望んでいるものを選んでいるのかどうか、わからなくなることがある。


今回ご紹介する『感性のある人が習慣にしていること(著者:SHOWKOさん)』は、そんな揺らぎを静かに問い直す一冊だ。タイトルにある“感性”と聞くと、多くの人は「生まれ持ったセンス」や「一部の特別な人の才能」を思い浮かべるだろう。だが、本書が示すのはまったく異なる視点だ。感性は先天的な才能ではなく、後天的に身につけられる“習慣”であるという。

著者のSHOWKOさんは、感性を育てるための五つの習慣を提示する。「観察する」「整える」「視点を変える」「好奇心を持つ」「決める」。このシンプルな習慣は、日常をただ過ごすだけの時間から、自分の輪郭を取り戻す時間へと変える鍵になる。たとえば、玄関を出た瞬間に頬を撫でる風に気づくこと。木々のざわめき、街角の匂い、夕空の色合い。それらをただ通り過ぎるのではなく、観察し、受け止める。そうした積み重ねが感性を耕していくのだ。
本書を読み進めると、読者の記憶のなかにある日常の風景が蘇ってくる。ある人にとっては、通学路で耳にした蝉の声かもしれない。あるいは、旅先で出会った見知らぬ土地の匂いかもしれない。感性を働かせるということは、そうした瞬間に気づき、受け取る態度を持つことだ。この本は、その感覚を呼び覚ます静かな触媒のような存在である。




夜、部屋の照明を少し落としてページを開く。その傍らにノンアルコールスパークリング《杉翳》を添えると、体験はより一層深まる。
日本の香りを“嗜む”という体験は、ただ味わうこと以上に、自分の内側を見つめる作法である。この本をきっかけに世界の捉え方が意識的に変わっていくプロセスと、ノンアルコールスパークリング《杉翳》によって日本の森と香りが身体に広がる感覚は、暮らしの些細な瞬間に響き合う。

日常に感性を取り戻すということは、決して大げさな営みではない。むしろ、静かな夜のひとときに本を開き、一杯の嗜みとともに過ごすことから始まる。大切なのは、その時間を「ただの消費」ではなく「心身を耕す習慣」として意識することだ。
ノンアルコールスパークリング《杉翳》は、森と人のあいだを結ぶ橋渡しのような存在である。福島・奥会津の森で蒸留された香りは、樹木が数百年のあいだ繰り返してきた循環の物語を宿している。その物語をグラスに映し取りながら、『感性のある人が習慣にしていること』を読み進めると、言葉と香りが重なり合い、日常の見え方が変わっていく。
感性を養うとは、特別な舞台に立つことではなく、自分の足元にある小さな感覚に眼差しを向けること。その習慣の積み重ねが、自分だけの尺度をつくり、生き方の軸を形づくっていく。
忙しい一日の終わりに、ページと泡が織りなす静かな余白を持つ。
その習慣こそが、感性を耕すための最初の一歩なのだ。
